想い出話
加部 康晴
<其の七>
今回は、前回採り上げた「会費制リーグ戦」当時の実戦譜の一部をご覧いただきたい。
尚、ルールは20分切れ負け。当時は目下の秒読み時計が現れておらず、大会でも切れ負けルールが恒常化であった。
切れ負け将棋の場合、形勢に見込みがなくなってからの時計勝負という別次元のケースがある。
それだけに勝勢側は淀みない勝ち方に集中する力を要する。それが終盤力を付けるうえでの鍛錬になったのも確かであった。
1図は、(先)加部vs黒崎戦から、黒崎さんは前回でも紹介した通り、終盤における手の見えかたと、
それに連動する恐ろしいばかりの時計の早押しという技をもっている。本局は黒崎さんの最も得意とする四間飛車穴熊。
私の作戦は銀冠。局面は穴熊流の捌きから、先手陣に迫らんとする終盤に差し掛かり、
今、7八の金を▲8七金上とかわした場面。今見ても、20分切れ負け将棋とは思えない細かい応酬がつづく。
尚、ここでは双方残り5分を切っている。
1図以下、△7九竜 ▲9八玉 △7八成銀 ▲同金 △同竜 ▲8八銀 △7九金 ▲6四桂(2図)
後手は穴熊の堅さを利して喰いついてくる。このパターンは黒崎さんの最も得意とするところ。
ましては例の超早い時計押しも加えての猛攻には笑うどころではない。
漸く間隙を縫っての▲6四桂が廻ったのもつかの間、以降、巧みに受けられ再び攻守逆転。
黒崎さんはこうした振替りが実に上手い。もっとも、加部−黒崎戦は凡そこのような展開となる。
△8六桂と打たれた3図、これより更に際どい手順がつづく。
3図以下、▲9七玉 △9四桂 ▲9五歩 △8八金 ▲7八金 △同桂成 ▲9四歩 △9五銀(4図)
後手はギリギリの手順で繋げてくる。△9四桂に対する▲9五歩は、8筋方面への抜けをみるうえでこう指すところ。
そして桂を取り除いた瞬間の△9五銀(4図)の抑えは最後の迫り。
以下、▲8八角 △8六香 ▲同 金 △8八成桂 ▲7四桂(5図)と進み、漸くはっきりしてきた。
繰り返しになるが、20分切れ負けとは思えない応酬とは思えませんか?
次回へつづく/其の八へ